ハンバーガーと私とガールズラブ
「もう、顔も見たくないよ」


 知らず知らずの内に涙が出てきた。


 私は泣き顔を見られたくなくて、走る。


 鼻水が出て、息が苦しい。


 だけど立ち止まってやるものか。


 私は石段を駆け下りる。


「高田、ごめん! 本当に、俺!」


 背後から荒井が何か言ってる。


 何も聞いてやるものか。


 だが、石段の手前で、私は立ち止まった。


 石段がいつもより少し急に見えて、落ちていってしまいそうな雰囲気を感じたのだ。


 高所恐怖症、じゃないんだけど、くらっと来てしまった。


「高田! 待ってくれよ!」


 荒井の腕が私の肩を触る。


「触るな! 変態!」


「違う、財布、忘れてる。社のとこ」


 ……確かに、頭突きの時に鞄から落としたのか、遠くに私のピンク色のがま口が見えた。


 取ってきてくれれば良いのになんて思わない。


 持ち物にだって触られたくない。


「俺、もう、帰るからさ。本当にごめんな」


「うるさい、話しかけるな」


 私はそう言うと、高田を睨む。


 私はしばらくそこから動けずにいた。


「あんたが私のこと好きだとか、関係ない。あんたと付き合うとか、絶対にないから。二度と話しかけてこないで」


 荒井はしばらくショックの表情を浮かべた後、観念したように「わかった」と一言だけ言うと、そのまま石段を降りていった。
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