Successful Failure -短編集-
東西線は混んでいた。
大手町からは多少、座る確率はあるのだが、この電車は無理そうだ。
俺たちは、並んでつり革につかまった。
電車が動き出す。
俺はスマホをいじるわけでもなく、音楽を聴くわけでもなく、電車にある広告を見ていた。
女性の方も、そんな感じだった。
広告は、化粧品、ビール、村上春樹の新作の小説だった気がする。
村上春樹は、「1Q84」を読んだことがある。
バイト先でよく山下さんに図書カードを貰う。
山下さんは、無類の時代小説好きで(主に幕末)、よく日本の過去の話を、さも自分がそこにいたかのように話をしてくれる。
俺は、その山下さんの影響を受けて、本を読むようになった。
初めは、先輩の手前、図書カードを使わなければと思い、有名な小説家の中でも有名な小説ばかりをとりあえず買っていた。
村上春樹の「1Q84」もその一つだ。
だが、次第に、それを読むことが楽しくなって、今ではすっかりはまっている。
それなら通勤中にも読むのかと聞かれると、それはない。
どういうわけか、人がたくさんいるところでは集中できない。
だから、本を読むときはいつも、寝る前か日比谷公園の噴水にあるベンチで優雅にサンドイッチでも食べながら読むようにしている。