Successful Failure -短編集-
缶コーヒーを開けた頃には、スマホの時計は0時を回っていた。
終電はもうない。
幸いなことに、明日はバイトが休みで、どうせ予定もない。
始発を待って、家に帰って、寝るだけだ。
それでも、この寒い中、見ず知らずの女性と二人っきりというのはいかがなものだろうか。
女性は、そんなことは気にする様子はなく、缶コーヒーで手を温めていた。
その仕草を見たとき、俺は女性が行徳が最寄駅だということを思い出した。
それにも関わらず、東西線で一緒になったことはないのはなぜか。
それを聞こうとしていたんだった。
「ん?それはねー。アタシ、朝はあのスタバでコーヒー飲んでるから。ほら、御茶ノ水って喫煙できるところ少ないでしょ?だから、朝、早めの電車に乗って、乗り換えの時、あのスタバでコーヒーを飲んで、それから君を窓から見かけたら、それに着いて行くって感じかな」
驚いた。
女性の方も、俺の存在に気づいていた。
それどころか、俺が改札を通るのを見計らっていたなんて。
どうりで同じ時間に同じ車両に乗ることになるわけだ。
「君の歩き方、結構独特だからすぐ君だってわかっちゃうんだよねー。ほら、なんか跳ねるような歩き方じゃない?」
俺の歩き方って周りからそんなふうに思われていたことにも驚いた。