うそつき王子の秘密のキス
「これで、この街から奏太が出て行くなんて、さびしいね」


 ……まあな。だけど別に日本から出て行くわけじゃねぇ。


 しかも、むしろ岸さんの実家の近くだから、また偶然会うコトもあるんじゃねぇ?


 そんな風に笑うオレに、岸さんも、くしゃっと笑う。


「でも、コレで本当にさよならって言うのは無しよ?
 その髪。特別な切り方しているから、メンテをかねて毎月……とは行かなくても、せめて、二、三カ月に一度くらいはココに帰って顔見せて?
 他の店に浮気をしたら許さないから」


 へーへー。


 浮気ってなんだよ。おおげさだなぁ。


 ま、どっちにしろハサミ嫌いだし、ココ以外で、髪なんざ切る気ねぇよ。


「それと……判ってると思うけど、新しい所に行っても喧嘩を売ったり買ったりしないこと。
 毎日ご飯を食べること。
 それをきちんと守ってくれたら、また、ご褒美にアポなしタダで髪切ってあげるから」


 それと、彼女とか、仲良いオトモダチが出来たら見せに来てねって。


 特別なサービス券がわり、とか言って岸さん。『Z』の名刺の裏にならやらさらさらと書いて勝手に筆談用のメモ用紙カバーに挟んでたけど。


 まったく! 岸さん、ずーっと昔に死んだオレの本当の母親みてぇ。
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