うそつき王子の秘密のキス
 くそ! 女なんて、大嫌いだ!


 心の中の悪態が酷過ぎて、バイクの運転が荒くなったせいか。


 震える声で、背中の泉川が俺の名前を呼ぶ。


「いっ……井上君、バイク速すぎ!」


 判ってるさ、くそったれ!


 泉川は、全く何も悪く無い。


 それは、ちゃんと判っているし、これは八つ当たりだって自覚しているつもりだった。


 だけども、泉川を感じて、変に騒ぐ胸のざわめきを振り払いたくて。


 更にバイクの速度を上げようとして……背中の泉川が震えているのに気がついた。


 う……ううんと。


 オレは一体、何をやっているんだろう?


 これ以上、泉川に迷惑をかけたくないはずなのに。


 多分、怒り狂っている二階堂と下校途中で出会ったら、大変なコトになるのが予測出来たから。


 泉川の通学手段が電車でもバスでも、今日は付き合って送る気になったのに。


 ……オレが泉川怖がらせてどーするんだってぇの!


 冷静になれ、オレ。


 バイクの運転中だ。


 事故を起こしたら、大事になるのは、身を持って知っているはずだ。


 オレは、大きく息を吸って、吐く息と一緒にすーーーっとアクセルを絞り、バイクの速度を緩める。


 と、泉川も余裕が出来たのか、オレの後ろで呟く声が聞こえた。
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