Fun days

吉岡

村田は、暗室で話す美桜と吉岡を
ドアの近くで見ていた。

何となく入れない雰囲気。
でも二人きりにして帰れない。
吉岡さんは敵ではなさそうだけど、一応男だし…

椅子に座りたいけど、テーブルの上に
自分の写真があるから、恥ずかしくて座れない。
あれはいい写真だと思うけど
自分じゃないみたいで恥ずかしい。
ああ、また顔が熱くなってきた…

村田が一人で赤面して恥ずかしがっていると、
暗室から二人は戻ってきた。

「吉岡さんの写真、見せてください」

美桜が言うと、吉岡がにやっと笑って
箱のようなものを持ってきた。
箱を吉岡が開けたとたん、美桜がニコニコし始める。

本当に写真が好きなんだな。
村田も美桜の背後に少し近づいて、吉岡の写真を見る。

「うわあ、これいいですね…」

一枚一枚ゆっくりと眺める美桜。
ふと、美桜の表情が緩む。

「…吉岡さん、もしかして
 この人、彼女ですか?」

「そう、よくわかったね」

照れくさそうに言う吉岡。

あ、吉岡さん彼女いるんだ。
安心する村田。

突然、村田の携帯電話が鳴った。
バイトの店長からだ。

「…美桜、ちょっと外に出てくるね」

頷いて村田を見送り、
美桜は吉岡と話を続ける。

「違いますねえ、やっぱり」

「うん。好きな人を撮るのが一番いいよ。
 それだけで思いがのるから。」

「そっかあ。…好きな人がいない場合は
 どうしたらいいと思いますか?」

「美桜ちゃん、好きな人いないの?…ふふ。
 そうだなあ、モデルを好きになったつもりで
 撮ってみたらどうかな…」

「あー、なるほどー…」

そっかあ。
好きになったつもりかあ。

ジャズ研の村田の写真を
美桜に渡しながら、吉岡が言う。

「美桜ちゃん、この写真を撮ったとき…」

「そうなんです。
 この村田をまた撮りたいんです」

吉岡の言葉を遮って、美桜が話し始める。

村田の写真を見ながら
”好き”と思ってみる。
…うん、いけそう。
よし。

吉岡がもう一度話し始める。

「このときの気持ちって…」

「村田を好きになったつもりで、
 撮ってきます!」

美桜はまたしても話を聞かず、
村田の写真を鞄に入れると、部室を出て行った。

美桜の背中を見送った後、
もう好きなんじゃないかなあ、と
吉岡は思いながらタバコに火をつけた。
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