Fun days

杏子

バスケの写真を攻略すべく
写真研究会で吉岡と作戦を練った美桜は、
颯爽と体育館へ向かった。

体育館のドアを開けると、早速、村田が飛んでくる。
今日は知らない女の子がついてきた。

「美桜。この子、同じ経営学部の杏子。
 一緒に見てなよ」

「噂通り、本当にかわいい。よろしくね」

「うん。こちらこそよろしく」

笑顔で答える美桜。
女の子に可愛いと言われるのは
悪い気がしないし、結構良くある。
それに杏子ちゃんだって可愛い。
ショートカットが似合う子って、なかなかいない。
美桜は一目で、仲良くなれそうな気がした。

ベンチに二人で座ると、杏子が話し始めた。

「健吾が、村田君と美桜ちゃんに
 迷惑かけてるみたいで、ごめんね」

「うん…大丈夫だよ。」

なんで杏子ちゃんが謝るんだろう。

「杏子ちゃんは、健吾君の彼女なの?」

思ったことをすぐ聞いてしまう美桜。

「いや、それはない。ただの幼馴染」

そうなんだ。
でもなんかちょっと照れてる気がする。

「健吾も私も、小学校からエスカレーターで
 ずっとこの学校なんだ。腐れ縁て感じ」

私ならその縁、切るなあ。
笑顔で頷きながら、思う美桜。

「健吾も悪いやつじゃないんだけどね、
 モテるから調子に乗っちゃって」

「モテても、すぐ捨てられるタイプじゃない?」

美桜の言葉にびっくりしている杏子。
何も考えずに、言っちゃった。
反省する美桜。

「ごめん、友達だもんね」

「ううん、いいの。本当のことだから。
 それにしても、美桜ちゃんて
 村田君の言うとおりの子だった」

「…なんか変なこと言ってるんでしょ」

そういえば、健吾にも言ってるっぽかったな。
村田が惚れてるとか言ってたもん。

「ううん。すっごくかわいいって」

なんてことを言っているんだ。
心にしまっておけばいいのに…
顔が熱くなる。

「あと、怖いときもあるけど
 それもかわいいって」

なにそれ…わけわかんない。
あ、だから朝起こすとき、ニヤニヤしてるのかな。
今度から、もっと冷たく起こそう。
そう思いながらも、顔が熱い。

「…美桜ちゃん、好きな人いるの?」

突然の杏子の質問にどきっとする。

「え、いないよ」

好きになった”つもり”はあるけど…

「そうなんだ。村田君が言ってたから」

村田には、好きな人はいないって
言ったよなあ。
どういうことなんだろ。
”つもり”の話もしてないし。

「村田、なんて言ってた?」

身を乗り出して、美桜が聞く。

「いや、えっと…」

美桜の真剣な目に、圧倒される杏子。

すると

「美桜、あぶない!」

村田の声が聞こえた。

ふと前を見ると
ボールが美桜に向かってきていた。
ハッとして、とっさによける美桜。

ボールが壁にあたる音と、ガシャンという音。

カメラが置いてあった、膝の上が軽い。
嫌な予感…
目を開けると、カメラが床に落ちていた。

「美桜、大丈夫?」

みんな、美桜のまわりに集まってくる。

「大丈夫…私は」

落ちたカメラを見て、冷める美桜。

「…あー、真二さんにもらったカメラ…」

村田がカメラを拾う。

いや、それより。

「カメラはいいんだけど、レンズがさ…」

村田からカメラを受け取って、見てみる。
やっぱり、レンズにヒビが入ってる。

「弁償だな…」

吉岡さんに謝らないと…

「ごめんなー、美桜」

健吾が謝っている。

「大丈夫。私が話に夢中になっちゃってたから」

「ごめんね、美桜ちゃん」

今度は杏子が謝る。

「全然。ちゃんと自分で
 持ってないのが悪いんだよ」

「…カメラは平気なの?」

村田が心配している。

「うん、どうせお下がりだし。そろそろ
 新しいの欲しいと思ってたから平気」

笑って美桜が言う。
真二さんからもらったものなのに…
きっと強がっているに違いない。
責任を感じる村田。

「俺も一緒に写真研究会に行って、吉岡さんに謝る」

「ありがとう。でも大丈夫だよ。
 ほら、時間がもったいないから
 バスケやって。ね、みんなも」

美桜が明るく言うと、みんなコートへ戻って行く。
心配させまいと、笑顔で見送る美桜。
レンズをよく見て確認したいけど、
もうちょっとあとにしよう…
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