Fun days

レンズ

「ああ、それ。古いからすぐ割れるよね。
 大丈夫だよ、俺のじゃないし」

吉岡がさらっと言う。

「吉岡さんのじゃないんですか?」

「うん。昔からここで眠ってたやつ。
 多分、山中さんのじゃないかなあ~」

「じゃあ10年間
 ここで眠っていたレンズなんだ…」

「そう。使われずに、置きっぱなしだったやつ。」

安心して力が抜ける美桜。

「でも、スポーツの写真撮るときは
 カメラから目を離しちゃだめだって
 言わなくてごめんな。」

美桜のカメラを見て言う吉岡。

「いえ、考えればわかることです。
 おしゃべりに夢中になっちゃって」

「うん。カメラは平気だね。
 昔のカメラは強いから。
 でも、そろそろ買ってもいいんじゃないの?」

「ですよね…私もそのメッセージかと」

小さくなって聞いていた村田。

「真二さんからもらったカメラなのに、いいの?」

「うん。これもいいカメラなんだけどね。
 …デジタルにしちゃおうかな」

心配している村田を気にせず、
吉岡を見て、美桜は言う。

「まあそうだよね。
 スポーツ撮り始めたら特に欲しくなるよね。
 …たまには、ここに遊びに来てな」

「いや、大丈夫です。多分買えません。
 一年はかかるかと」

何の話をしているのかよくわからないけど
とにかく、真二さんのカメラはどうでもよさそう。
真二さんのこと好きなはずなのに。

「真ちゃんに聞いてみようかな…
 使ってないデジタル一眼レフが無いか」

「でも全部持って行ったでしょ。アメリカに」

「普通持って行きますよね…
 写真の勉強に行ってるんだもん…」

「…アメリカって?」

思わず村田が口をはさむ。

「言わなかったっけ?
 真ちゃんアメリカ行ってるんだよ」

「知らない」

「ここに来たちょっとあとくらいから」

えー…
美桜全然変わらないじゃん。
遠くに行っちゃったのに…

「いつ戻るかわからないしなあ。
 それに、なんか彼女できたっぽいし」

「ああ、山中さんのホームページに
 外人の女の子、写ってたね」

「あれ、絶対できてますよ…
 手が早いなあ…」

「恋人作るのが、英語の上達法だしね」

「それ、真ちゃんも言ってました」

笑って言う美桜。

美桜、全然平気な顔して…
無理してるんじゃないのかなあ…
いや、そんなに上手に嘘をつけるわけがないか。
もしかして、俺の勘違い?

村田は思い切って、
帰り道で美桜に聞いてみた。

「俺、美桜は真二さんのこと
 好きなんだと思ってた」

「…前は大好きだったよ。でもいつも遠い存在で、
 いつまでたっても近づかないの。早々にあきらめたよ」

笑って美桜は言った。
そして、美桜はふと思い出した。

「村田、それ杏子ちゃんに言った?」

かわいいけど、怖い顔になっている美桜。

「いや、あの、そうなんじゃないかなーって…」

「言ったんだ」

かわいいけど、怖いことに変わりはない。

「…ごめんなさい」

「好きな人いないって言ったのにー。
 …それに、村田は口が軽すぎる。
 私のこと色々言わないで」

美桜は怒っているような顔をしている。
でも唇をとがらせていて、可愛い。

「ごめん」

黙ったままの美桜。
居たたまれなくて、思わず弁解を始める。

「みんな美桜のことを、彼女なの?って聞くからさ、
 ちゃんと違うって言わなきゃって思って、
 彼女じゃなくて、俺の片思いだよって…」

あ、これは弁解じゃないな…

「えっと、美桜は恋人作る気はないんだけど、
 俺は諦められなくて、そばにいたくて…」

いや、これも違うな…
顔が赤くなるのがわかる村田。

「もう。わかったから、何も言わないで」

美桜を見るが、怒っているのか、
照れているのか、よくわからない。

「うん。ごめん。言わないようにする」

ああ、でも誰かに美桜のこと聞かれたら
何て言えばいいんだろう。
全くいい案が思い浮かばない村田だった。
< 41 / 70 >

この作品をシェア

pagetop