Fun days

怪我

健吾が乾杯の音頭を取り、打ち上げが始まった。

右隣には杏子、左隣には佐々木、向かいには健吾。
念願通り、同じ大学の友達に囲まれて座った美桜は、
打ち上げを楽しんでいた。
村田は他校の女の子に囲まれて
遠くのほうに座っている。
笑っている村田にイラつきながらも
彼女のふりから開放されて、安心する美桜だった。

「杏子ちゃん、審判カッコ良かった。
 写真撮りまくっちゃったよ」

「えー、うれしい。写真楽しみにしてるね」

「うん、明日スマホで見られるようにするからね」

「かなりの枚数になんじゃない?容量たりる?」

パソコンに詳しい佐々木が心配する。

「選んでアップするから大丈夫だと思うんだけど、
 足りなかったら村田のアカウント作ろうかな。」

「あ、村田と選ぶの?」

「うん、村田の家でやる」

「へー」

アカウントとかの話は聞いてなかったくせに
健吾が口をはさむ。

「俺も行きたい!明日は村田の彼女じゃないだろ」

「いいよ別に。」

村田を見ると楽しそうに話している。
別に、聞かなくてもいいな。

杏子に聞きたいことがあった、と思い出す美桜。
健吾は山田君と話してる。
ええい、聞いてみちゃえ。
美桜は小声でこっそり杏子に話しかける。

「杏子ちゃんが女子バスケ部に入らないで
 マネージャーになったのは、やっぱりさあ…」

健吾のため?とは、さすがに聞けないので
目で訴えてみる美桜。

「あー…、高校の時、怪我して
 バスケできなくなっちゃって」

意外な答えに、一瞬言葉を無くす美桜。

「え…そうなんだ…ごめん…。
 すごく不純なこと思ってた。」

「そうだと思った。」

笑って杏子は続けた。

「長い時間プレーするのはダメって言われてて、
 試合も出られないんだ。
 でもこうやってバスケに関われるから、うれしいよ。
 今でもバスケは大好きだから」

笑顔で話す杏子が、美桜には痛々しく見えた。
杏子ちゃんは、バスケが大好きなのに
試合はできないんだ…
美桜は、試合中のみんなの顔を思い出す。
ずっと走り回ってて大変なのに、
みんなすごくいい顔だった。
普通の練習と違って、楽しいんだろうなと思った。

自分の体のせいで、好きなことができなくなるなんて
考えたことがなかった。
もし、私の手が無くなって、
カメラが使えなくなったら、どうなんだろう。
撮りたいのに、撮れない。
目の前の風景を、頭では切り取ることができるのに
それを形にできないなんて。
想像して涙が出た。

「辛かったね」

言葉にすると、更に涙がボロボロ出た。

「泣かないで。昔の話だよ」

ハンカチを差し出しながら、笑って杏子は言う。

「うん」

ハンカチで目を抑え、頷く美桜。

「こうして美桜ちゃんと友達になれたのも、
 楽しく審判できるのも、怪我のおかげだから
 今は良かったなと思うよ」

「そっか」

杏子ちゃん、すごい、と思うが
感動して言葉にならず、涙が止まらない。
でも、美桜の頭を撫でる杏子の手が優しくて、
無理に涙を止めることはないなと思えた。
それがまたうれしくて、泣いてしまう。

「…美桜、写真撮ってくれよ」

健吾が言う。
こんなに優しい声は初めて聞くな、
と思って笑いそうになる。

「うん」

みんなの優しさがうれしくて、
泣き顔のまま、美桜はカメラを取り出した。
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