Fun days

ラブコール

意を決して、村田の電話に出る美桜。

「…もしもし」

『美桜?ごめんね、電話して』

いつもの村田の声。心がほぐれていく。

「大丈夫だよ」

『あのさ、明日無理しなくていいから。
 練習来て欲しかったけど、疲れたよね』

何で?と思う美桜。
あ、メール返信してないからか…

「ごめん、返信するの遅くなって。
 練習は行くつもりだったよ。
 吉岡さんにも写真見せたいし。
 …杏子ちゃんにも謝りたいから」

何だか、緊張する。
何で、いつも普通に話せてたんだろう…

『そうなんだ。良かった…
 佐々木から連絡あったけど、杏子は大丈夫だよ。
 美桜に悪いことしたって、逆に心配してたみたい』

「そっか。じゃあ明日行っても、大丈夫かな」

うれしくて、また涙が出る。

『来ないほうが心配すると思うよ。
 …美桜、また泣いてる?』

「うん…ちょっとだけ」

『そっか。よしよし』

「…うん。」

目を閉じると、本当に撫でられてるみたい。

「ねえ、村田…美桜、って呼んで」

さっき呼ばれて、くすぐったくて嬉しかった。
いつも呼ばれているのに。

『え?…美桜』

「うん。もう一回」

『美桜』

嬉しくて笑う美桜。

『どうしたの、美桜。』

「わかんない」

そう言って、本当にわかんない、と思って笑う。

『いくらでも呼ぶけど。…美桜。』

返事をするかわりに、ふふふ、と笑う美桜。

「呼ばれて、うれしい」

素直に言って、自分でびっくりする。

「…私も名前で呼んでいい?」

『いいけど…”まさみ”って女の子みたいでさあ…』

「雅巳」

言い終わらないうちに呼んでしまう。

『…はい』

返事が可愛くて、笑う美桜。

『何で笑ってるのー?変な名前だからなあ』

「え、そんなことないよ。素敵な名前。大好き」

また素直に言っちゃった。しかも大好きって。
名前が、だけど。

『そう?じゃあ、いいか』

「雅巳。大好き」

…どうやら、私は本当に素直らしい。
明日、顔を見て言いたかったのに、止まらない。

『…そんなに好き?名前が』

言われて、そうだよね、と思う。わからないよね。

「ううん。名前が、じゃなくて、雅巳が、大好き」

雅巳は何も言わない。

「…何か言ってよ。」

『あ、うん…嬉しくて…死にそう』

「死んだら、やだ。」

『いや、死なない。絶対死なない。
 …ずっと美桜の隣にいる。』

「ずっと、そばにいて」

『うん…美桜、大好き』

「もっと言って」

『美桜。大好きだよ』

「うん。私も、雅巳、大好き」

『…うん』

「長電話になってごめんね。これからバイトだよね。
 …明日は火曜日かあ。
 夏休みだから、起こしに行かなくていいんだ」

『来てくれてもいいよ』

「練習3時でしょ。さすがに起きれるよ」

『美桜に会いたいもん。』

「…素直だなあ。何時がいい?」

『9時』

「早いよ。もうちょっと寝なよ」

『うーん。じゃあ10時』

「まあいいか。じゃあ、行くね」

『うん。明日はすぐ起きる』

「いつも起きないのにね」

『起きて待ってようかな』

「そうだね。そうして。すぐ顔が見たいから」

『うん…。でも寝てたらごめん』

「いいよ。合鍵で入るから。それで顔に落書きする」

『バスケあるから、水性でお願いします』

「ふふ。…話、止まらないね。また明日ゆっくり話そう。」

『うん。美桜、切って』

「え。うん。じゃあね、またね」

『うん。また明日』

「…切れないよ。雅巳、切ってよ」

『俺は無理。美桜が切らないと、終わらないよ』

「えー。言い切ってるし…じゃあ、切るよ。おなか空いたし」

『うん。また明日ね』

「明日会えるの、楽しみ。じゃあね、雅巳。
 バイトがんばってね」

美桜は少し躊躇して、通話終了ボタンを押す。
ちゃんと切れたか、画面をじっと見る。切れている。
はあ。と息をついて、ベッドに倒れこんだ。
幸せで死にそう。あ、死んだら雅巳に会えないや。
さっき雅巳に言ったばかりだった。まあいいや。
それくらい幸せだあ…。
おなかが空いたはずなのに、満たされている美桜だった。
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