Fun days

直球

学食でランチを食べた後、
今日も美桜の本探しについていく村田。

”おきろ”
と書かれた右手を見て、こっそりにやにやする。

美桜が俺の腕をしっかりと握って書いた文字。
美桜の手の感触を思い出す。
触りたいと思っていたら、触られた。

…ふふふ。

俺にさわるの、嫌じゃないんだなあ。
じゃあ、俺も美桜に触ってもいいのかな。

隣で本を探している美桜を見る。
なかなか目的の本が見つからないようで、
不機嫌な顔をしている。

…今は触っちゃいけないな。

空気を読む村田だった。

本を探している美桜は、疲れ始めていた。

今週の課題の本は、有名だから
すぐに見つかるだろうと思っていたが、なかなかない。

他の出版社から出ているかもしれない、と
違う棚のほうへ行こうして、
すぐ横にいた村田の肩に、体当たりしてしまう。

「うわっ、…ごめん」

「あっ…、大丈夫?」

よろける美桜を支える村田。

いつもはマンガコーナーに直行なのに
今日は美桜の隣にずっといる村田。

「大丈夫…。
 村田、マンガ読んでくれば?」

邪魔になってきた美桜が言う。

「いや、美桜のそばにいたいから…」

照れたように言う村田。

静かな本屋で恥ずかしいことを言うなあ…
聞こえないふりをして、本探しを続ける。

やっと目的の本を見つけると、
次に美桜は、写真集のコーナーに向かった。

刺激的な写真集に目を奪われる村田を尻目に
あの写真集を探す。

…あった。これだ。
うん、言ってたとおりいい写真だ…
思わず微笑む。

村田がのぞきこんでいることに気づき
焦って本を閉じてレジに向かう。

会計を済ませて本屋を出ると、美桜は

「じゃ、これで帰るから」

と村田に言った。

「えー…、もう帰るの?」

来る前に、本を買ったら帰るって、
念押しされてるけど、もう少し一緒にいたい…

「…さっきの猫の写真集、俺も見たい。
 一緒にどこかで見ようよ」

「あれは一人でゆっくり見たいんだ。
 見終わったら貸すからさ」

諦められずに村田は言うが
美桜の答えはつれない。

悲しみに覆われていく村田の顔。

なぜか罪悪感を感じる美桜。

帰るって言うと、いつもこの顔になる。
村田は素直すぎるから、困るんだよなあ…

と思っていると、村田の顔が明るくなっていく。

「美桜、コメダ珈琲って知ってる?」

村田が少し笑いながら言う。

「…知ってる」

実は気になってて、行きたいと思ってたんだよね…

「スイーツが美味しいって有名なんでしょ?
 この辺にできたんだって。行こうよ」

さっきとはうって変わり、屈託のない顔で笑って言う村田。
その素直な笑顔に、つられて笑ってしまう美桜。

帰ると宣言したのにカッコわるっと思い直し、
うつむいて頷く。

それにしても、
村田の情報収集力が上がっていて、侮れない。
密かに感心してしまう美桜だった。
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