淡 墨 桜 う す ず み さ く ら
突如、この古風な雰囲気の中似つかわしくない音が響いた。
スマホの着信音だ。
畳の上に転がった彼女の薄紅色のスマホが着信を報せてピカピカ点滅している。
彼女はまたもぐるりと瞳を動かして、そのスマホをちらりと見たが、着信に応える気はなさそうで、投げ出した白い手が動くことはなかった。
出ないの?と言う意味でそのスマホの行方を目で追っていると、着信は焦れたような余韻だけを残しやがて消えた。
「いいの。大した用じゃないから」
彼女は言った。
また―――……嘘
嘘
嘘
ウソ
全ては嘘で塗り固めてある。出会ったときからそうだ。
僕はその薄紅色をしたスマホを手に取ると、ディスプレイに指を滑らせた。
ウェルカムシートは桜の樹が映っていて、その枝には淡いピンク色をした花びらがいくつもくっついている。
ロックの掛かっていないその画面を開くと、
”着信:主人”
の文字が。