淡 墨 桜 う す ず み さ く ら
彼女は嘘ばかり。
でも最後の最後の嘘はとてもきれいなものでした。
僕は彼女が消えた襖の向こう側をそっと見つめ、その言葉をひたすらに反芻していた。
庭から吹かれた桜が舞い散る。
僕の正座した膝元や、肩や手などに落ち
僕はそのひとひらひとひらを抱きしめるように、腰を折った。
貴女を愛していた。
たとえ貴女に伴侶がいようとも
最初はどうだって良かった。
けれど僕の心は愛を知って穢れてしまった。
僕はもう前のような美しい心の櫻ではない。
桜を抱きしめながら、遠くでスマホの着信の音が聞こえた。
「櫻なんて大嫌いよ」
ああ
彼女の最後の言葉が、まだ耳奥でくすぶっている。
着信が鳴りやみ、またもウェルカムシートに戻ると、
そこには美しい桜が咲き誇っていた。
彼女の愛した桜だ。
~Fin~