ドッペル・ゲンガー
「ひっ……」

 大吾がゆっくりとこちらへ振り返る。

 私は小動物のように体を縮ませた。

「立てるか?」

 差し伸ばされた手。

 恐怖で歯が鳴った。

「気持ちは分かる。でも今は立ち止まってる場合じゃない」

 大吾は私の手を取るとぐいっと手前に引き、小刻みに震える私をその場に立たせた。

「ほんとに大吾、なの……?」

 命を救われたとは言え、あまりに残虐な行為を躊躇いもなくしてみせた大吾に、私は疑問を抱いた。

「詳しい話はまた後でする。だから……」

「危ない……ッ」

 大吾が言いかけたのと、その背後から人影が飛びかかってきたのはほぼ同時だった。

 私の叫びに、大吾は体を反転させながら私を左側へと押しのけた。

 もつれ込み、重なるようにして倒れていく大吾と"私"。

 大吾の左肩あたりに深々と突き刺さった包丁が月明かりを妖しく反射していた。

「早く行け!」

 抱きつくように"私"に手足を絡ませながら大吾が叫ぶ。
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