ドッペル・ゲンガー
「やっぱりただ闇雲に歩いていても見つからないよね……」

「そうだな……手掛かりの一つでもあればまだ状況は違うけど……」

 互いに溜息が漏れる。

「大吾は他に何か言ってなかったのか? 些細な事でも何でもいいんだけど」

「ううん。他には何も……本当に切羽詰まった感じだったから……」

「……そうか」

 こうしている間にも時間は刻一刻と過ぎ去っていく。

 志乃の身の安全が保証されていない状況で、これはかなりまずい。

「やっぱり志乃の家の方面へ行ってみるしかないのかな。ここから歩きだとちょっとかかるし、家にいる保証だってないけど……」

「まあ、徒歩でぎりぎり回れる範囲で、志乃の居場所に繋がりそうな場所って言ったらそれぐらいしかないよな」

「じゃあ、とにかく早く向かおっか。私も休憩を挟みながらだったら走れるし」

「あんまり無理するなよ……」

 言い終えると、隣を歩いている透が不意に人差し指を口元に当てながら私の方へ顔を向けた。

 目は私達が進もうとしていた方向へと向けて、眉間には深い皺が刻まれていた。
< 132 / 147 >

この作品をシェア

pagetop