ドッペル・ゲンガー
 私達がいた通りからその先の角まではおよそ二十メートルほど。

 交差した道路ではなく、折れ曲がった一本の通り道だったので、ここに隠れた以上、すんなりと前を通り過ぎてくれる事を祈るしかない。

 幸い音は立てていないし、塀の裏側で通りからは死角になる位置に身を潜めているので、あとは下手に体を動かして音を立てないように注意するだけだ。

 それでも、頬を伝う冷や汗が止まらない。

 私の心臓は、鼓動する音が聞こえてしまうんじゃないかと思うぐらいに激しく脈を打っていた。

 引っ掻くような音が次第にこちらへと向かうにつれて、足音もはっきりと聞こえるようになった。

 塀の向こうを歩いている人物は一体誰なのか。

 "私"か、もう一人の透か……

 それとも大吾?

 もしくは志乃?

 ……いや、それはない。

 なぜなら、ぺたぺたと不規則なリズムを奏でる足音は、とてもゆっくりとしていておぼつかない。

 とてもじゃないけど、まともな人間のそれではなかったからーー
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