ドッペル・ゲンガー
 足音が遠ざかっても、私達は十分ほどの間行動を起こさなかった。

 とてもゆっくりなペースだったのと、もし万が一引き返してきた時の事を考慮しての事だった。

 私は今の今まで、まともに呼吸する事さえ忘れていた。

 生きた心地がしない。

 まさにそういう表現がぴったりだ。

 それでも何とかやり過ごすと、透の「もう大丈夫」のアイコンタクトで私は大きく息を吐いた。

「そろそろ出よう」

 結局あの足音の主は誰だったのか。

 私は黙ってうなずく。

 透が門扉に再び手をかけるのを見て私は立ち上がった。
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