ドッペル・ゲンガー
 説明を求めた事に対して質問で返されたので私はつい言葉が漏れる。

「イつも言いタい事ハ言エナくて、心ノ中にしマっておくダケ。周りカラは"良い子"ダって言われテるケド、そンな自分ニ違和感ヲ感じテなかっタ?」

 相手の意図する事が分からない。

 けれど、言われている意味は何となく理解できた。

 それは普段自分が考えていた事だ。

 本当は周りから言ってもらえるほど、私は良い子なんかじゃない。

 輪を乱したくないから、人をむやみに傷付けたくないから、普段は本当に思ったり感じたりした事も、自分の心にしまい続けてきた。

 そんな事をしている内に、だんだんと本心を伝える事ができなくなって、ジレンマを感じる一方で、周りからの私を見る目は高評価に変わっていった。

 性格がいいだとか、人当たりがいいだとか……

 でも、そんなのは本当の自分じゃない。

 私だって、時には人と反対意見を持つ事だってあるし、理不尽な意見を押しつけられたら腹も立つ。

 素直で従順なイメージを持たれているのかも知れないけれど、そんなイメージとは裏腹に、みんなと同じようにわがままな部分や、自己中心的な考えだって多少は持っていた。
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