ドッペル・ゲンガー
 私は良い子なんかじゃなくて、単に自分の気持ちを隠す事がほんの少しみんなよりも上手いだけ。

 いつからそうなったのかは分からない。

 別に過去に何か大きなトラブルを起こした事もないし、誰かに指摘されてそうなったわけでもない。

 処世術とでも言うのだろうか。

 高校生ながらそういったものに敏感な私は、言い方を変えれば歳相応ではない大人びた考えを持っていただけなのかも知れなかった。

 初めはそれで良かった。

 だけど、一度そうなってしまったら今度は徐々にその考えに固執するようになって、私はそんな自分に息苦しさを感じるようになった。

 一体どれが本物の自分なのか。

 ここ最近はそんな事を考えるようになってしまい、それが私の人知れず悩みの種になっていた。

 誰かに相談できればよかったけど、一度演じてしまった自分のイメージを壊すのは思いのほか勇気が必要だった。

 どんな風に思われるのか。

 そんな事を心配していたら、ますます私の行動は自分が望む方向とは反対を向く。

 周りから見れば大した事のない悩みかも知れないけれど、当事者である私からすればそうもいかない。

 自分の中で生まれた矛盾する感情を上手く処理できない辺りは、やはりまだ自分が精神的に子供という事を証明しているかのようだった。
< 141 / 147 >

この作品をシェア

pagetop