ドッペル・ゲンガー
「口デ言ッテモ分カラナイ、自分デ決断シヨウトモシナイ……ダッタラ、仕方ナイヨネ」

 忌々しい表情を浮かべて、"私"は手にした包丁を私に向ける。

 透の血に塗れて、てらてらと月明かりを反射する様子が、私をぞっとさせる。

「や……めろ……」

 恐怖で固まる私の前に、小刻みに体を震わせながら苦悶の表情で腿に手を当てる透が庇うようにして立ち上がる。

「往生際ガ悪イナァ……モウ終ワリハ見エタモ同然ナノニ」

 呆れたように"私"が溜息をこぼす。

 どうすればいい……

 このままだとやられてしまう。

 透に対しては『手を出してはいけない』と言っていたけど、今度はどうなるか分からない。

 最悪のケース、次こそ"私"の怒りを買って殺されてしまうかも知れない。

 私に関しては容赦ないだろう。

 間違いなく最初から殺す気で向かってくるに違いない。

 考えたくはないけれど、"私"の言う通り、終わりが近付いている気がした。
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