ドッペル・ゲンガー
 だとしても……

「分かった……諦めるから……だから、透にはもう手を出さないで」

「お、い……美咲……?」

 驚愕の表情を浮かべ振り返る透の肩にそっと触れて、私は前に歩み出た。

「賢明ダネ。覚悟ハ決マッタノカナ?」

「うん。でもその前に……」

 私がさらに前へと進むと、"私"との距離はもう五十センチほどのところまで縮まった。

 不思議そうに首を傾げる"私"。

 私は包丁が視界に入らないよう、真っすぐ"私"の目を見つめた。

「殺すなら、透に見えないところでやって。それと、大吾がどうなったか、それも教えて欲しい」

「や……めろ……美咲……、戻って、こい……」

 透の言葉に返事は返さず、私は大きく息をついた。
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