ドッペル・ゲンガー
「分カッタ。ジャア場所ヲ変エマショウ。大吾ニツイテハ、生キテルカ死ンデルカハ分カラナイ。確認スル間モナクアンタヲ追ッテキタカラネ」

「そん、な……」

 絶望感で私は青ざめた。

「サ、モウイイデショ? 早ク行クワヨ」

 抵抗される事を警戒してか、前を行くよう促される。

「待て……ッ……行くな……」

「ごめんね透。私のせいでそんな大怪我させちゃって……私はもう駄目。でも、透は逃げて……ううん、ちゃんと、生き延びて……」

 目尻からこぼれる涙が頬を伝う。

 無理に作って見せた笑顔は、きっと人生最後のものにしては残念な出来だっただろう。

 それでも、残される透の不安や罪悪感が少しでも和らぐように、私は目一杯の感情を込めた。

 透がどういった表情をしているのかは、視界が霞んでよく見えない。

 でも、それで良かった。

 変に感情を刺激されるような表情だったら、せっかくの決断に水を差されてしまうかも知れないし、未練だって残るかも知れない。

 歩き始めた私達の後を追ってくる気配を背中に感じたけど、私はもう振り返る事はなかった。

 さよなら、透……志乃……

 そして……大吾ーー
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