ドッペル・ゲンガー
「自分の声ぐらい分かるだろ?」

 男はそう言いながら、ゆっくりとこちらへ向かって足を運んだ。

 カラカラカラ、と引きずられた鉄パイプがまた音を立てた。

「早く終わらそう。な?」

 一体何の事だと思っていると、男は急にこちらに向かって走り始めた。

「……!」

 突然の状況の変化に、俺の反応が少し遅れた。

 大して距離があったわけではないので、二の足を踏んだ俺の前には、大きく鉄パイプを振りかぶった男の姿がはっきりとその顔を晒していた。
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