ドッペル・ゲンガー
 冗談、だろ……

 そんなはずがない……

 ガギン!

 驚きと恐怖で膝が笑った。

 とっさにしゃがみ込んだ俺の頭上で、鉄パイプは電柱と火花を散らしていた。

 殺される……っ。

 そう思ったのと走り出したのは同時だった。背後からもの凄い殺気を感じながら、俺は振り返る事もなくひたすら全力で足を動かした。

 夜の熱気と急な運動、そして得体の知れない恐怖に、全身からはおびただしい量の脂汗が噴き出す。

 何度も足がもつれそうになりながら、俺は必死で男から逃げ出した。
< 21 / 147 >

この作品をシェア

pagetop