ドッペル・ゲンガー
「と、とりあえず救急車……」

 冗談なのか本気なのか良く分からないトーンで、志乃は携帯を取り出す。

「大吾が真面目に勉強するって言ってるんだから、別にいい事だよな?」

「え、う、うん……」

 透が同意を求めてきたので、私は少し詰まりながら返事を返した。

「美咲、今まで面倒かけて悪かったな。これからは勉強も真面目にやるからさ。分からない事があったらまた教えてくれよ」

 にこりと爽やかな笑みを浮かべる大吾。

 何だろう、この違和感。

 別に勉強に対して真面目に取り組む事が変なわけじゃない。今までがどうとか、そんな事は関係ない。人は年齢を重ねていけば少しづつ変わっていくものだと思うから。

 でも、大吾のこの急な変化は一体何なんだろう。

 まるで別人のような。

「お前も、抱えてしまってるんだな……」

「えっ……」

 透が志乃の相手を始めたのを見計らって、大吾は私に耳打ちするように囁いた。

「大吾、どういう……」

 問いかけようとした言葉は、チャイムの音にかき消される。

 クラスメイトが席に戻っていく中、私は呆然と大吾の背中を見つめていたーー
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