ドッペル・ゲンガー
 大吾の足跡がだんだん小さくなって、私は誰もいなくなった教室で一人立ち尽くしていた。

 何か、言ってたよね。

『考え込むな』

 どういう意味?

 大吾が去り際に残した言葉を反芻しながら、私も教室を後にした。

 昇降口で靴を履き替え外に出ると、日差しの衰えない太陽が燦々と輝いていた。途端に額に滲む汗を拭うように、手を翳しながら目を細めつつ家までの道を歩く。

 透の言う通り、真面目な事は悪い事じゃないよね。

 人は何かをきっかけに変わっていくものだし、私達が急に変わったと感じているだけで、大吾からすると以前から考えていた事なのかも知れない。

 何があったのかは分からないけど、そのきっかけがたまたま昨日あってそれで大吾は決意したのかも知れないし。

 さっき別れ際に言われた言葉は少し気になるけど、考え込むなというのは、そういった私達が大吾に向ける目に対しての言葉だったのかも知れない。

 まあ、別に悪い事でもないんだしそれほど深く考えても仕方ないか。

 これ以上考えても仕方ないので、周囲の風景に意識を切り替える。

 なるべく日陰を選びつつ、私は自宅へと足を運んだーー
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