ドッペル・ゲンガー
「ただいま」

 この時間なら、共働きの両親はまだ家には帰っていない。特に返事を期待したわけでもなく、何となくいつもの習慣でつい言葉が出た。

 靴を脱いで上がると、鞄を方にかけたままリビングへと向かう。そのまま冷蔵庫に直行すると、隣の食器棚からグラスを、冷蔵庫からはきんきんに冷えた麦茶を取り出して手にしたグラスに注ぐ。

 とぷとぷとグラスが麦茶で満たされると、握った手の平に冷やりとした感覚が伝わってきた。

 乾いた喉を一気に潤すと、空のグラスをシンクに置き、私は自分の部屋へと向かう。

 鞄を部屋の隅に放り出し、ベッドに横になる。

 窓際では、夏風に揺れるカーテンが静かに波をうっていた。
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