ドッペル・ゲンガー
 それだけじゃない。普通なら窓やちょっとした隙間から漏れるはずの民家の光も、まるでみんな外出してしまったかのように綺麗に沈黙していた。

 そんな事あるはずがない。

 一軒や二軒ならまだしも、この辺り一帯の住人が全員留守にしているなんて。

 寝起きに確認した時間からしても、寝静まるにはまだ早い。

 他にも不思議な事はあった。

 ここまで走ってくる途中、何度も道路を横断してきたのに、そこを走る車を一台も見かけていない。

 無我夢中でここまできたのでその時は気にもしなかったけど、よく思い返してみれば信号なんかも点灯していなかったように思う。

「みんな、どこに行ったの……?」

 わずかに冷静さを取り戻したと思ったら、今度は別の恐怖が私を襲った。
< 53 / 147 >

この作品をシェア

pagetop