ドッペル・ゲンガー
 まさか、一人ぼっちじゃないよね。

 SFの世界じゃあるまいし、と自分に言い聞かせてみても、次第にその不安は大きくなっていく。

 そうだ、携帯。

 はっとなって上着のポケットを探る。

 ない……

 何で。

 頭の先から血の気が引いていく。

 何度も何度も確認して、最後には上着を脱いではたいてみたけど、結局携帯は出てこなかった。

 落とし、たんだ……

 今来た道を目でたどる。

 戻ってみるか。

 いや、駄目だ。

 あの正体不明の女とはち合わせるかもしれないし、どのタイミングで落としたのかも分からない。

 あきらかにデメリットの方が大きい。

 私は天に向かって大きく溜息をついた。

 携帯がないんじゃ、誰かに助けを求める事もできない。

 こうなったら。

 私は駄目もとで目前の民家のインターフォンを押した。

 駄目だよね。

 人が出てくるどころか、音自体鳴らなかった。偶然を期待してあと何軒か押してみたけど、どれも結果は一緒だった。
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