ドッペル・ゲンガー

笠井志乃

 たくさんの人が行き交う繁華街。

 学校を出た私は、ほぼ毎日電車に乗って家とは反対方向へと向かう。

 今日も五時からバイト。

 八百円からスタートした私の時給は、来月から二十円上がる。

 テスト前も頑張るか……

「おはようございまーす」

 まだオープン前の薄暗い店内に入る。

 うちは居酒屋だから、オープンは五時からだ。

 すでに準備や仕込みをしている社員に声をかけながら、私はバックヤードへと向かう。

 バックヤードと言っても、大した事はない。

 店の備品や冷蔵不用の食材、大量にストックされたおしぼりなんかがスペースの大半を占めていて、ここでできる事と言えば隅に荷物を置いて、変な体勢で着替える事ぐらい。
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