ドッペル・ゲンガー
「ただいま」

 家に着き、ローファーを脱ぎ捨てながら奥へと声をかけた。

「おかえり」と、私にそっくりな声で返事が返ってくる。

 リビングに向かうと、お母さんはさっき仕事から帰ってきたのか、まだ仕事行きの服装のまま台所で洗い物をしていた。

 「ご飯食べるでしょ? ちょっと待っててね」

 「うん、ありがと。何か手伝おっか?」

 私の言葉にお母さんは「志乃はゆっくり座ってなさい」と言って笑顔だけをこちらに向けた。

 私はそれに従わず、食器などの準備を始めた。

 「彰吾は? もう食べた?」

 テレビの前でゲームに夢中になっている弟へ声をかけると「食べたよー」と心ここにあらずといった返事が背中越しに帰ってきた。
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