ドッペル・ゲンガー
 お母さんは、私が物心ついた頃から女手一つで私達を育ててくれた。

 当時、彰吾はまだ生まれたか生まれる寸前でそれは大変だっただろうけど、周りの人達に助けを求めながらここまできたんだろう。

 私の昔の記憶は、ほとんどが彰吾のお世話か、帰りの遅いお母さんに代わってこなしていた家事ぐらいのものしかない。

 だから、あんまり放課後や休みの日なんかに友達と遊んだ思い出はない。

 それでも、私はそれを辛いと思った事や、ましてやそれを理由にお母さんを恨んだ事はなかった。

 お母さんは私が起きる頃には家を出て、帰りはだいたい夜遅く。

 それでも、いつも笑顔で私達と一緒にいられるわずかな間は、寝る間を惜しんででも私達が喜ぶような事をしてくれていた。

 幼い彰吾がまだ一人で寝付けなかった頃、そばで寄り添いながら毎日のように優しく手を握り続けてあげたり、休みの日には私達と一緒に遊んでもくれたし、手作りのお菓子を作ってくれたり……
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