ドッペル・ゲンガー

「お母さん。あんまり無理しないでね？　最近、また仕事の時間増やしたでしょ？」

　お皿に盛られた料理を食卓へと運びながら、私はお母さんの顔へと視線を移した。

　コンソメ風味のロールキャベツのいい匂いがふわっと食卓に広がる。

「私は大丈夫よ。志乃こそ、最近バイトばっかり。何か欲しいものでもあるの？　あるんだったら……」

「私の事はいいってば。そんな事よりもお母さんの体の方が心配だよ」

　お母さんの言葉を遮って、私は素直な気持ちを口にした。

「あのね、志乃。私は志乃と彰吾が幸せならそれでいいの。二人が笑ってる姿が私の何よりの癒しなのよ」

「でもだからって……」

「親ってそういうものよ。辛い事とかしんどい事があっても、子供のためなら何でもできるんだから。さ、食べましょ？」

「冷めちゃわない内に早く」と、お母さんは心配する私の背中を優しく押して椅子に座らせた。