ドッペル・ゲンガー
「もう。いっつもそうやってはぐらかすんだから。体調悪い時とかはちゃんと言ってよね？　家事とか料理ぐらい、いくらでもするんだから」

「はいはい。じゃあ、頂きます」

　私の言葉を聞いているのかいないのか、お母さんはにっこりと微笑みながら両手を軽く合わせた。

　そんな様子に内心しょうがないなあ、と溜息を漏らしながら、私もそれにならって手を合わせてからほんのり湯気の上がるロールキャベツへと箸を伸ばした。

「そういえば、志乃は好きな人とかいないの？」

「ふぇっ！？」

　突拍子もない質問に、私は箸でつまんだロールキャベツを落としそうになる。

「いや、最近やたらとバイト頑張ってるからね、ひょっとして彼氏にあげるプレゼント代でも準備してるのかなって思って」

　興味津々といった様子で、深みのあるお母さんの瞳が私を捉えた。

「え、違うよ。それはその……」

　本当の理由を言うわけにはいかないので、何か適当な理由を探すけど見つからない。
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表紙・目次

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