ドッペル・ゲンガー
「今は秘密。目標の金額まで貯まったら教えてあげる」

「そ。じゃあ楽しみに待ってる」

 ふふっと笑う目尻に深い皺が刻まれた。

 お母さんもだいぶ老けちゃったな……

 毎日顔を合わせていると些細な変化には気付きにくいものだけど、こうやってまじまじと見てみれば、やっぱりいたるところに時の流れを感じさせるものがあった。

「ちょっと、どうしてそんなにじっと見てるの?」

「ううん、何でもない」

 視線に気付いたお母さんが、不思議そうな表情で私を見た。

「……いつもありがとね」

「あら、何? 急にそんな事言われるとちょっと照れ臭いじゃない」

 言った私もそうだけど、突然私から素直な感謝の言葉を言われたお母さんも少し照れ臭そうに微笑んだ。

「私ね、お母さんの子供で良かったなって思ってるんだよ」

「もうどうしたのよ。今日の志乃ってば、嫁入り前の娘が言うみたいな事ばっかり」

「いや、何となくね。普段あんまりこういう事面と向かって言えてないからさ」

 お母さんは何を想像しているのか、瞳を少し潤ませながらも嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「私の方こそ、私の娘として生まれてきてくれてありがとう」

 お母さんも決してそれがお世辞じゃない言葉を私に返してくれた。
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