ドッペル・ゲンガー
「ごちそうさま」

 先に食事を済ませ、私は空いた食器をシンクに運ぶ。

「彰吾ー、来年からはもう中学生になるんだから、いつまでもゲームばっかりしてちゃ駄目なんだからね」

 蛇口の栓を開けながら、私は背中越しに声を向ける。

 彰吾からは「分かってるよー」と気のない返事が返ってきた。

「まったく……ほんとに分かってんのかしら」

「まあまあ、今はいいじゃない。子供は伸び伸び、よ」

 遅れてシンクにやってきたお母さんの手から空の食器を受け取り水にさらす。

 子供は伸び伸びと。

 これがお母さんの教育のモットーだ。

 昔から私も彰吾も、お母さんにあれこれと口うるさく言われた事はない。

 彰吾が勉強そっちのけでゲームに夢中になっていようと、私の容姿が派手になろうと、一切それについて口を挟まれた事がなかった。
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