ドッペル・ゲンガー
「何してるの?」

 声をかけたのは、完全に開けた視界の中央で、正座をしているのか、座ったままの人影が目についたから。

 ちょうど私に背を向ける格好でそうしているので、顔は分からない。

 けれど、目の前にいるのはお母さんで間違いないはずだった。

「起こしちゃった?」

 声をかけているのに、さっきからまったく返事がない。

 座っているぐらいだから、寝ぼけているにしてもまったく私の声が届いていない事はないだろう。

 なのに、お母さんはこちらへと振り返る事もなく、ただじっとその場で佇んでいた。

「ちょっと、お母さん?」

 部屋に入り、私はお母さんの肩に手をかけた。

 あれ、この服どこかで……

 そこで私は少し違和感を感じた。

 近付いた事と、暗闇に少し目が慣れてきた事で、うっすらと容姿が認識できる。

 それは、お母さんの普段来ている服ではなかった。

「あんた、誰……?」

 途端に言いようのない緊張が走る。

 伸ばした手を引っ込めて、私は少し後ずさった。
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