ドッペル・ゲンガー
「おはよ、志乃」

　彼女は落ち着いた様子で口を開いた。

　またも違和感。

「ちょっと、人の家でなにしてんのよ？　お母さんは？　どこ？」

　何だかよく分からない状況に、私は少し混乱した。

　これは夢？

　眉間に皺が刻まれていく。

「あんた、結局どうしたいの？」

「はあ？」

　思わず声が漏れた。

　人の質問にも答えないで、一体こいつは何を言っているのか。

「分かってるでしょ？　ここはあんたが作った世界なんだから」

　またも的外れな言葉が飛んでくる。

「ちょっといい加減にしなさいよね。警察呼ぶわよ？　……って、あれ？」

　込み上げた憤りと共に、空いた方の手で慎重に探っていた部屋の電気のスイッチを勢いよく押したけど、明かりが点かなかった事にうわずった私の声は暗闇の中で宙に舞った。
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表紙・目次

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