ドッペル・ゲンガー
「目を逸らしても駄目。決めるのはあんた自身なんだから」

「はあ? 意味分かんない。あんたさっきから何言ってんの? ほんとに警察呼ぶわよ?」

 私はだんだんと苛々してきた。

 どうやったのかは分からないけど、人の家に勝手に上がり込んだ上に、わけの分からない事ばっかり……

「ほんとはもう少し待ってあげたいんだけど……あんまり時間がないの」

 そこまで言うと、女の体がゆっくりと動き始めた。

「できれば逃げないで欲しいな」

「え……ちょっと待って……」

 しっかりとこちらへ向き直った女に、私は後ずさった。

「大丈夫。痛いのは一瞬だから……」

 一歩、女はこちらに歩を進めた。

 垂らしていた右腕をゆっくり持ち上げる。

 その手には裁ちバサミのような先の鋭いものが握られていた。

「来ないで……」

 視線を逸らせないまま、私はまた一歩後退する。

 暗闇で大部分が真っ黒なシルエットだけのその姿が余計に恐怖を増幅させた。
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