ドッペル・ゲンガー
「いやっ……」

 私は意を決して後ろに飛び跳ねると、掴んだ扉を思い切り前に押し出した。

 とてつもない衝突音と衝撃が、押さえつけた扉の向こうから伝わってくる。

「彰吾! お母さん! いないの!?」

 私は腹の底から叫んだ。

 けれど、返事が返ってくる事はなかった。

 その代わりに、全身を貼り付けた扉から響く乱暴な音がひたすたに鳴り響いている。

 このままだと押し負ける……

 どうしたらいいの。

 目一杯全身に力を込めるけど、扉が解放されてしまうのは時間の問題だ。

 扉を打つテンポが徐々に変化する。

 恐らく体当たりをする際に、一度体を離し"溜め"を作っているのだろう。

 どちらが有利かは一目了然だった。

 仕方ない……

 私は横目で玄関までの正確な距離を測り、そこから飛び出すまでのイメージを何度も頭の中で繰り返したーー
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