ドッペル・ゲンガー
 ここまでくればひとまず大丈夫、かな……

 膝に手をつき肩を上下させながら、私は乱れた呼吸を落ち着かせようと大きく息を吸った。

 「彰吾、お母さん……」

 無意識に声が漏れた。

 さっきは逃げ出す事で頭がいっぱいだったけど、やっぱりちゃんと二人の様子を確認しておけば良かった。

 まだあの部屋にいたかも知れない二人を置いてきてしまった事に私の胸は締めつけられた。

 お願い、無事でいて……

 私はぎゅっと瞳を閉じる。

 これからどうすればいい。

 今すぐにでも二人の安否を確認したいけど、家にはまだあいつがいるかも知れない。

 それとも私を追うために家を離れた?

 なかなか考えがまとまらないまま時間が過ぎる。

 こういう時は自分で行動するよりも警察に届け出た方がいいのかな。

 そう思い当たるけど、私は携帯を持っていない。

 まさかこんな事になるとは思っていなかったし、ただ単に飲み物を口にしにリビングに行っただけなので、携帯は充電機に挿したままだ。

 絶望感が全身を巡る。

 誰か起きてるかな……

 辺りを見渡してみるけど、当然ながらどこも真っ暗だった。
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