ドッペル・ゲンガー
「痛っ……」

 通りを歩いていると、不意に足の裏に鋭い痛みが走った。

 怪我をした足をかばうようにしてその場に屈むと、私は足の裏を確認した。

「これか」

 うっすらと血が滲んだ足の親指からすぐ隣に視線を落とすと、割れた瓶の欠片のようなものが月明かりを反射していた。

「ちゃんと捨ててよね……」

 忌々しい表情を浮かべながらそれをつまみ上げて、道端に投げ捨てる。

 家を飛び出す時、靴を履いている余裕なんてなかったから、私の足は素足のままだった。

 一度立ち上がって、そっと足を地面につける。

 我慢できないほどではなかったけど、じんじんと鈍い痛みが私を襲った。

 走れなくはないか……

 またあの女に遭遇したら、また逃げる羽目になるかも知れない。

 立ち向かう事も視野には入れているけど、こっちは丸腰なのだ。

 その可能性は充分にあった。

 重い溜息が漏れる。

 意識を逸らすようにできるだけ他の事を考えながら、私は再び歩き出した。
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