ドッペル・ゲンガー
 百メートルほど歩いたところで、私の足は止まる。

 五十メートルほど先に、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。

 こんな距離まで気付けなかったのは、意識が足元に向いていたから。

 私は舌打ちをした。

 向こうはもう私に気付いているだろう。

 どうする。

 この距離ならまだ逃げれる。

 私は首を振って、前を見据えた。

「ねえ!? あんた一体何なの!? どうしてこんな事するのよ?」

 私の声が、静かな通りに反響した。

「聞こえてるんでしょ? 答えてよ」

 無視を決め込むつもりなのか、彼女は黙ったままこちらに向かってくる。

 私との距離が徐々に詰まってきた。

「もう、いい加減にしてよ……」

 鼻の奥がつんとする。

 もうわけが分からない。
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