ドッペル・ゲンガー
「ずーっと考えてたんだよね? "私らしさ"って何だろう、って」

 唐突に女が切り出した。

「中学生の時、"地味だ"って周りから苛められて、それを機に高校では見た目も派手にして、性格だって明るく振舞って……それ以来、同じような目に遭う事はなくなったけど、本当の自分はどこに行っちゃったんだろうって、ずっと悩んでた」

 私は顔を上げた。

 嘘……

 どうしてこの女はそんな事を知っているの?

 ずっとこちらに向かってきていた女との距離は、もう十メートルほどのところまで迫っていた。

「そんな……」

 私は目を疑った。

 屋外に出た事で、月明かりに照らされた女の顔が露わになる。

「私はあんた。大人しくて地味な、本当の"私"だよ」
< 89 / 147 >

この作品をシェア

pagetop