ドッペル・ゲンガー

藤巻透

「透、シュート!」

 チームメイトの声が俺の背中を後押しする。

 ペナルティエリアに少し入ったところで、俺はキープしていたボールをほんの少し右前に蹴り出すと、シュートの体勢に入る。

 左の軸足で体を支えながら腰を捻り、後方に振り上げた右足を一気にボール目がけて振り抜く。

 俺の足元から弾き出されたボールは、スピードを上げながら真っすぐな軌道で相手のゴール右隅に突き刺さった。

「おっしゃ、ナイシュー!」

 綺麗に決まったゴールに、チームメイトは二、三度手を打ち鳴らすと踵を返して自陣へと小走りで戻っていく。

 右手を少し挙げてその労いに応えつつ、俺も自陣へと駆け出したーー

「おつかれ。最近絶好調だな。この調子で一週間後の試合も頼むわ」

 紅白戦が終わり、コートの隅でスポーツドリンクを手にした俺に、三年でキャプテンの浅沼が声をかけてきた。

「ありがとうございます。次はT高ですよね? 大会で当たる可能性もあるし、徹底的に潰しとかないと」

 親指を立てると、浅沼は満足そうにまた別の部員の元へと向かって行った。
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