ドッペル・ゲンガー
「ただいま」

 家に帰ると、リビングに向かいながらキッチンで夕食の準備をしている母の背中に声をかけた。

「おかえり。今日はちょっと遅かったのね。晩ご飯、先に食べる? 今日は透の好きな肉じゃがにしたわよ」

「ありがと。晩ご飯は親父と一緒でいいよ。先にシャワー浴びてちょっと横になるわ」

 にこにこと笑顔で言う母に断りを入れると、俺は鞄を椅子に置いた。

「分かった、じゃあ寝てたら起こしてあげる。お父さんが帰ってくるのだいたい八時頃だと思うから、それまでゆっくりしてなさい」

 部活帰りで俺が疲れていると思ったのか、穏やかな視線を俺に向けると母はまたキッチンの方へと体の向きを変えた。

「サンキュ」と残して、俺はバスルームへと向かう。

 脱衣所で服を脱ぎながら目の前の鏡に視線をやると、ほどよく日に焼けて健康的な肌が視界に映る。

 筋トレのような基礎練習にも一切の手を抜かないので、俺の体は高校生にしてはがっちりとしていた。

 初めは嬉しかったんだけどな……

 日を追うごとについていく筋肉を見つめながら満足そうにしていた時期もある。

 家でも筋トレをしたりして、あの頃はただ単純に日々成長していく自分に少し自惚れていた時もあったっけ。

 ぱっと鏡から視線を逸らしてバスルームへと入る。

 噴き出したシャワーの水が温水に変わった事を確認すると、俺は頭からそれを一気にかぶったーー
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