濃紺に染まる赤を追え。
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「つか、まじ有り得ないんですけどー」
「……」
「電話しても2コールで出ないしさー、ラインしても5秒以内に返ってきたためしがないわけ」
「……」
それは普通だと思う、と喉まで出かけた言葉を卵焼きと一緒に飲み込んだ。
教室は喧騒に包まれている。
机や椅子を引きずる音が絶え間無く響き、時折、笑い声があちらこちらから聞こえる。
「ナミのこと振るとかまじないわー、そんなやつこっちから願い下げだっつーの」
「はあ……」
「あー、こんなんだったらあの合コン行くんじゃなかった」
そう言いながら、チョコデニッシュをかじるナミさんをちらりと見上げた。
「つか、ナミが色目使っても、あいつ全然気づかないしー、あー時間の無駄」
「……あの、ナミ……さん」
「まじ有り得ない。それでも男かっての」
「……えっと」
「あ、ネイル剥げてるー」
隣のクラスのはずなのに、なんでいつもわたしのところに来るんだろう、この人。
聞こうと思っても当の本人はわたしの存在なんかまるで無視で、どこからともなく赤いマニキュアを取り出した。
うん、まあ、それはいつものことなんだけど。
「あ、唐揚げうまそー。貰っていい?」
そう聞きながらも、剥げかけのネイルを纏った指はすでに唐揚げをつまんでいる。
どうぞ、と頷けば、それはナミさんの口の中へ消えていった。