濃紺に染まる赤を追え。
静かに降る雨を聴覚で捉えながら、階段を上る。
たん、たん。
単調なリズムをスリッパで刻み、手摺りに体重を預けた。
三年になってから、さらに体力がなくなったように思える。
じめじめとした空気と、夏に近付きつつある暑さで、カッターシャツが肌に纏わり付いていた。
「あっつー……」
髪の生え際はうっすら汗をかいている。
湿気で前髪はうねり始めた。
いつもの癖で、スカートの中を覗かれないように軽くお尻あたりを押さえる。
けれど、ひとけがないのに加え、そこまでスカートが短いわけじゃないので、面倒くさくてやめた。
気付くと、目の前には青いドアが立ちはだかっていた。
乱れた呼吸を直し、うねった前髪を指先で整える。
ノブに手をかけ、右に捻り、引いた。
ギイ、開いた扉。
さっきより雨脚が激しさを増したのだろう、次から次へと降る雨は、ザーザーと音を立てている。
そして灰色の雨のカーテンの向こうに、見慣れた背中があった。
「……桐谷?」
確信を持ちながらも、疑問形。
微動だにしないそのグリーンのカーディガンに、駆け出したい衝動を抑える。
持っていた赤の折りたたみ傘を、ぺらぺらの布から抜き出した。
そのケースはドアの近くに置き去りにして、傘本体を手にする。