濃紺に染まる赤を追え。
もたつきながらも留め具を外し、傘を開く。
通常のものより少し小さいそれに、身を収めた。
一歩、一歩。
踏み締めるように、雨の中、桐谷へと近付く。
ワックスで無造作に整えられていたはずのシルキーアッシュは、降り頻る雨でぺたんこだった。
「桐谷」
「……」
上半身だけ起こして座り込んでいるその背中。
さすがに寝ているはずはないだろうから、彼の得意技、シカトだろう。
どんな顔で雨に濡れているのか気になって、その正面へとまわってみる。
「……桐谷ってば」
「……」
俯いている桐谷の表情はよく見えない。
自らもしゃがみ込み、視線を合わせるように覗き込んだ。
「風邪引くよ」
呟くようにそう言い、持っていた傘を差し出した。
桐谷を濡らす雨は止んでいき、わたしを濡らす雨が降ってくる。
じわりじわり、カッターシャツが染みていくのを背中で感じながら、桐谷を窺っていると、その顔が不意に上がった。