濃紺に染まる赤を追え。
「……よっこ」
「ん?」
「……雨?」
「うん」
ぼんやりと、うつろげな目。
何を考えているのかまったく分からない。
首を傾げて次の言葉を待つけれど、桐谷の口は開いて閉じての繰り返し。
空気だけが揺れる。
雨は激しさを増す。
どこかで雨宿りを、と思ったけれど、見渡した限り屋根のある場所はなかった。
「よっこ、……風邪引くよ」
やっと聞こえたのは、さっきのわたしと同じ言葉。
「……うん、そうだね」
「透けるよ」
「キャミ着てるから大丈夫」
雨音に掻き消されそうな小さな声で、ぽつりぽつり、呟くように交わす。
互いに目を逸らさず、じっと見つめ合うような形になっていた。
「こんなとこで、何してたの?」
ふと、まだ桐谷を濡らす雨が降っているのに気付き、傘を持った手をさらに伸ばす。
カッターシャツを折り曲げたところから、直接雨粒が腕に当たったけれど、そんなことはもうどうでも良かった。